企画者の“声”

 私が樽川さん親子とお会いしたのは4年前、まだ原発事故から間もない2011年6月のことでした。事故によって被害を蒙った方々に対して、今後の見通しや対応などを相談するため、福島県内各地で法律相談会が開かれていました。私はそうした法律相談会に参加する一人でした。

 当時、法律相談会には私以外にも地元や首都圏から十数人の弁護士が毎回参加していて、本編で樽川さんもお話しされていますが、そこで初めて樽川さんの話しを聞いたのは郡山の渡邊純弁護士でした。彼は、重要な相談だからと、法律相談会に参加した弁護士全員とともに、改めて樽川さんのお話しを伺ったのです。

 お父様のことはすでに一部で報道されていましたから、私も樽川さんのことは存じ上げていました。「あの報道されていた方か」というのが最初の記憶です。しかし、この映画を観た方も同じように感じるのではと思いますが、「百聞は一見に如かず」とは、まさにこのことでした。ご遺族のお話しを聞けば聞くほど憤りとともに、“こんな不条理が許されていいのか”と感じる自分がいました。

 現在の東電の賠償システムは、事故前に比べて事故後に売り上げが減少した分について、その差額を賠償として支払うというものになっています。したがって、出荷して“売れなかった”という実績を作らないと賠償が支払われないことになってしまいます。基準値以下のものを自己の判断で出荷しなかった場合、東電は賠償をしないのです。美味しい野菜を食べさせたいという本質がありながら、「震災前に売れていた野菜が何%売れなくなった」という賠償のため、そして生活のため、汚された大地で歯を食いしばりながら野菜作りを続けなければならない、この不条理。そしてそれ以上に、樽川さんが真に憤りを覚えているのは“土こそ農業の命”と考えてきたお父様や先祖代々の気持ちを踏みにじった、その心なさです。同じ大地に生きるわたしたちは、農家の人々のその苦悩や不条理に目を背けてはいけないはずです。

 井上監督の熱意と樽川さんの決意によって、この作品は完成することができました。私自身、多くの人に樽川さんの、そして農家の人々の苦悩を伝えたい、知っていただきたいという、その一心で製作に参加しました。一人でも多くの方に、福島の被害と現状が伝わればと願っています。どうぞよろしくお願いいたします。


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企画者: 馬奈木厳太郎

1975年8月20日生まれ、福岡県出身。弁護士。福島第一原発事故後、原告約4,000名が国と東京電力を被告として、“原状回復”・“被害の全体救済”・“脱原発”を求める「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(「生業訴訟」)の弁護団事務局長を務めている。著書(共著)に、『あなたの福島原発訴訟』(かもがわ出版、2013年)、『国と東電の罪を問う』(かもがわ出版、2014年)、『福島を切り捨てるのですか』(かもがわ出版、2015年)など。